語源
美波町は、平成18年(2006年)3月31日に日和佐町と由岐町が合併して成立した町です。「美波」は日和佐にも由岐にも先例のない、まったく新しい名で、合併に際して選ばれました。
名の意味は「美しい波の町」
平成17年3月22日の第2回日和佐町・由岐町合併協議会の会議録に、会長の発言としてこう残っています。
協議第15号新町の名前につきましては美しい波の町美波町とすると提案いたしております。
太平洋に面した海岸線の町であることを、そのまま名にしたものです。
決め方は「旧町名をあえて外す」だった
同じ会議録には、名称選考委員会の委員(由岐町・日和佐町から各5名)による説明が記録されています。旧町名を使わないことは偶然ではなく、意識的な方針でした。
旧町名を入れて下さいとお願いは何度も受けたんですが、それをやりますと、やはり数の論理で、住民が多い日和佐町に一方的に決まってしまうのは明らかであります。(中略)「由岐日和佐町」では日和佐が後になる。やはり「日和佐由岐町」がほしいということでございました。ということは、由岐町も同じ考えがあるので、やはり後でしこりを残すような決め方はやめましょうと。全く新しい名前でスタートした方が後にしこりを残さないんじゃないか
つまり「美波」は、どちらの町の名も入れないために選ばれた名です。合併の当事者から一字も採っていないのは、そうした配慮の結果でした。
この方針は日和佐町側の強い反発を招いてもいます。同会議録では、日和佐町の委員が「名称についてはアンケートの取り方、開票の方法、さらに旧町名をどうして入れていただけなかったのかという納得できないという厳しい町民のご意見がございまして、町長、議長宛に公開質問状も頂き」と述べ、議会が否決しかねない状況を報告しています。協議第15号は最終的に賛成多数(日和佐町の委員は保留)で確認されました。
決定の手続き
名称選考委員会が候補5点を選び、それを日和佐・由岐両町の住民アンケートにかけて最多の名を協議会に提案する、という手順が採られました。会議録が伝える集計は次のとおりです。
| 項目 | 数 |
|---|---|
| アンケート配布 | 3,297世帯 |
| 回答 | 3,005世帯(回収率91.14%) |
| 「美波町」の得票 | 1,338(全体の44.53%)で最多 |
先行した三町合併と「美海町」
この地域の合併は、はじめ海部郡上灘の3町(由岐町・日和佐町・牟岐町)で進められていました。海部郡上灘三町合併協議会のサイトは「新町名称は美海町」と掲げ、平成16年12月19日に合併協定調印式を行い、合併期日を平成17年10月1日としていたことを記録しています。
しかしこの三町合併は成立せず、牟岐町は単独で残り、由岐町と日和佐町の2町であらためて合併したのが現在の美波町です。
なお、「美海」が先にあったからこそ「美波」という案が多く寄せられたのではないかという見方があります(個人サイト「幻想と日常」の地名考による)。これは当事者の証言ではなく、経緯を追った書き手の推測です。
歴史的変遷
| 時代 | 呼称 | 備考 |
|---|---|---|
| 昭和 | 日和佐町・由岐町 | それぞれ独立した町として存在 |
| 平成 | (美海町) | 上灘三町合併協議会が新町名に決定。三町合併は成立せず幻に終わる |
| 平成 | 美波町 | 2006年3月31日、日和佐町・由岐町の合併で成立 |
地名の特徴
美波町の町名は、日和佐や由岐のような歴史地名とは成り立ちが違います。合併する双方の名を意図的に排したうえで、土地の姿を表す語を新しく当てたものです。旧町名を入れると人口の多い側に寄ってしまう——という合併特有の事情が、地名の中身ではなく地名の選び方に表れた例といえます。
旧町名の日和佐は駅名や道の駅名などに今も残っており、合併後も地域の歴史的な呼び名として強い存在感を保っています。町立病院も「美波町立」を冠しつつ、日和佐・由岐それぞれの地に施設が置かれました。