語源
伊丹の語源には定説がありません。『川辺郡誌』(大正3年)は諸説を並べたうえで、「其の起源につき諸説区々にして信を置くに足るもの無く、要するに『イタミ』の名は最も古きに有りしを後世に至り、種々の説を駙會せしなり」と結んでいます。地名そのものは古く、説のほうが後から付けられたという見立てです。
主な説は次のとおりです。
- イタナミ(斎田並)説 — ナダ(灘)がナミタ(並田)であることを手がかりに、その語順を逆にした形が イタミ だとする説です。猪名川に臨んで斎田が並び連なる土地を意味したと考えます。丹後国与謝郡の板列、播磨国多可郡の板浪という、転訛前の形をとどめた地名の存在を根拠とします(吉田金彦『語源研究』1988年)。
- 板上(イタカミ)説 — 町の南北に板橋があり、それを越した丘阜の地に町並みができたので「板上」と呼び、転訛して「イタミ」になったとする説(『川辺郡誌』)。
- 絲海(イトウミ)説・絲績(イトウミ)説 — 太古この一帯が海に面し、のちに細い入江となったことから「絲海」と呼んだとする説と、呉織が池田に渡来して紡績(イトウミ)を行ったことによるとする説(『有岡古続語』『川辺郡誌』)。
- 「丹」を水しぶきとみる説 — 猪名川が入り海だった頃、伊丹台地に打ち寄せた荒波や川の情景を語源とみる説(伊丹茂)。
ただし、近世の地元史料自身がこれらのうち2説を否定しています。 『有岡古続語』が引く『有岡むかし語』(1700年代末・西谷午贏)は、「糸海」「丹丘」「伊水」といった表記は俳諧の盛んな土地で風流を競って作られた当て字であって「むかしより此名ありしにもあらす」と述べ、板上説についても「これとてもしかと証拠なし」と退けています。にもかかわらず、これを引用した梶曲阜が「糸海」「糸績」説を断定的に書き、それを『川辺郡誌』が引いたため、以後も説として生き続けました(大国正美)。
説の中身は分かれますが、多くは武庫川と猪名川にはさまれた沖積地・段丘という、猪名野として早くから開けた土地の成り立ちに由来を求めています。このほか、イタミを崩れやすい地形を指す語とみる説も紹介されています。
文献上の初見
「いたみ」の文献上の初見は、治承4年(1180)の『山槐記』(権中納言中山忠親の日記)です。摂津国豊島の故義貞の子が宅を焼いて出奔し、これを 伊多美武者所 某が山科まで追った、という伝聞が記されています。武者所とは院や摂関家に置かれた警固の武士(およびその詰所)のことで、「伊多美」はその武士の名字にあたります。
『伊丹市史』はこの記事を「伊丹という固有名詞の文献上の初見史料」と位置づけ、当時「伊丹」を名字とする武士がこのあたりにいたことを証するものと述べています。初見が人名(名字)の形で現れることは、地名が人名に由来することを意味しません。 中世の名字は在地の地名から取るのが通例で、伊丹氏の系図も摂津国河辺郡の伊丹庄を名字の地としています。
この点は『川辺郡誌』も明確に否定しています。同書は、鎌倉幕府から当地に封ぜられた加藤景廉の七代の孫・景親が氏を伊丹と称したことを「伊丹の文字の出でし始め」とする説を紹介したうえで、それより約500年さかのぼる聖武天皇の時代の荘園に「津の国河辺の郡御園の莊伊丹の郷」とあることを挙げ、「伊丹兵庫頭を以て字の起こりといふは当たらず」と述べています。つまり地名が先にあり、それを名乗った武士の記録がたまたま最初に残ったというのが史料に即した理解です。
地名そのものとしては、嘉元元年(1303)に多田院へ田地を寄進した文書に「摂津国伊舟村」と見えるのが村名の初見とされます。
歴史的変遷
| 時代 | 呼称 | 備考 |
|---|---|---|
| 平安末 | 伊多美 | 治承4年(1180)『山槐記』の「伊多美武者所」。伊丹を名字とする武士の存在を示す、文献上の初見 |
| 鎌倉 | 伊舟/伊丹 | 嘉元元年(1303)の多田院への寄進状に「摂津国伊舟村」。村名としての初見 |
| 室町〜戦国 | 伊丹(有岡) | 伊丹氏が伊丹城を構え、表記が定着。のち荒木村重の有岡城となる |
| 江戸 | 伊丹郷町 | 酒造業が興り、寛文のはじめ(1661年ごろ)近衛家の釆邑となって繁栄 |
| 明治 | 伊丹町 | 明治22年(1889)4月1日、町村制施行により川辺郡伊丹町が発足 |
| 昭和 | 伊丹市 | 昭和15年(1940)11月10日、伊丹町と稲野村が合併して市制施行 |
地名の特徴
伊丹の名は、中世の伊丹庄・伊丹村から近世の伊丹郷町、明治の伊丹町へと同じ文字列のまま受け継がれ、昭和15年の市制施行でそのまま市名となりました。語源をめぐる諸説は古代の土地の姿にさかのぼるものですが、市名そのものは近世以来の町名を継承したものです。
イタナミ(斎田並)説が 灘 との対比で組み立てられているように、伊丹の地名は猪名野・灘といった阪神間の古い地名群と並べて論じられてきました。「田」「並」「斎田」といった農耕・開発を示す要素を読み取る説は、猪名川流域が弥生時代以来の稲作地帯であったことと響き合います。
特産・名物
伊丹市は、酒造業が古くから栄えた「日本酒」の銘醸地であり、豊かな自然と都会的な利便性が融合した街です。特筆すべき地域資源や特産品として、以下のものが挙げられます。
- 地酒(日本酒): 伊丹市は、「伊丹諸白」をはじめとする高品質な日本酒が造られる銘醸地として知られています。特に「伊丹と灘五郷」は日本遺産に認定されており、この歴史的な背景を持つ地酒は、その洗練された味わいが特徴です。地元酒蔵からは、伝統を受け継いだ上質な純米酒や大吟醸酒など、多様なラインナップが楽しめます。
- 兵庫県産コシヒカリなどの銘柄米: 豊かな水資源と気候に恵まれ、高品質な「コシヒカリ」をはじめとする銘柄米の生産地でもあります。炊き立てのふっくらとした食感と甘みが特徴で、お米は地元農家から直接届くことが多く、食卓を豊かに彩ります。
- 地域特産スイーツ・加工品: 近年では、チョコレートやサツマイモなどの農産物を活用したスイーツが人気を集めています。例えば、「紅はるか伊丹の干し芋」のようなさつまいもを使ったお菓子や、専門店が手掛けるアーモンドチョコなど、素材の良さを活かした洗練された加工品が多く見られます。