語源
竜王町は、1955年(昭和30年)に鏡山村と苗村が合併して成立した町です。新町名の「竜王」は、両村にまたがって町域を東西から挟む**二つの「竜王山」**から採られました。
町の東にあるのが雪野山で「東の竜王山」、西にあるのが鏡山(標高384メートル)で「西の竜王山」と呼ばれます。旧鏡山村域には鏡山が、旧苗村域からは雪野山が仰がれ、どちらの村にとっても「竜王山」は日々目にする信仰の山でした。合併にあたり、一方の村名を残せば他方に偏るところを、双方が等しく仰いできた山の呼び名を採ることで新町の名としたのです。町のシンボルマークも、左右の括弧が「り」を表すと同時に、この東西二つの竜王山を象っています。
なぜ「竜王山」と呼ばれたのか
「竜王山」という山名は、水と雨をつかさどる八大竜王を山頂に祀り、雨乞いの祈祷を行ったことに由来します。八大竜王は法華経に説かれる八体の竜神で、日本各地で降雨祈願の対象となってきました。竜王町の場合も、鏡山の山頂には竜王宮が鎮座し、八大竜王のひとつ摩那斯竜王を祀っています。
雪野山の側でも同じ信仰が伝わります。山麓の龍王寺は山号を「雪野山」といい、寺伝では和銅3年(710年)に元明天皇の勅願で行基が創建した「雪野寺」に始まるとされます。この寺に伝わる奈良時代の梵鐘(国の重要文化財「雪野寺の鐘」)は、干ばつの折に雨乞いをすると必ず雨が降ったと伝えられ、霊験あらたかな鐘として知られました。寛弘4年(1007年)には一条天皇から勅号を賜り、この霊験にちなんで寺号を雪野寺から龍王寺へ改めたと伝わります。
つまり竜王町の町名は、単なる山の名前ではなく、近江の平野で水を求めた人々の雨乞い信仰そのものを写した地名だといえます。
鏡山という山名の由来
「西の竜王山」こと鏡山にも、独自の古い由来があります。伝承では、新羅の王子天日槍が但馬の出石へ向かう途上、携えてきた神宝の日鏡をこの地に納めたことから「鏡」の地名と山名が生まれたとされます。『日本書紀』には「近江国鏡村の谷の陶人は、すなわち天日槍の従人なり」とあり、天日槍に従って渡来した陶工の集団がこの地に住みついたことがうかがえます。山麓の鏡神社は、この天日槍を祭神として祀っています。
これとは別に、山麓の古墳から鏡が出土したことによるとする説、壬申の乱で大友皇子方と戦った大海人皇子の武将鏡大君がこの地で討死し葬られたことによるとする説も伝えられます。一方、地名学の立場からは、「カガミ」はもともと平らな頂をもつ山や芝草地を指す地形語であり、鏡を納めたという伝承よりも古く遡る可能性が指摘されています。なだらかで整った山容をもつ鏡山は、この地形語の説明にもよく合致します。
鏡山はその美しい姿から古来歌枕として知られ、近江の名山のひとつに数えられました。『万葉集』以来、鏡山・鏡路を詠んだ和歌は百首を超えるといわれます。
歴史的変遷
| 時代 | 呼称 | 備考 |
|---|---|---|
| 奈良 | 鏡(かがみ)/ 雪野 | 天日槍伝承の地。710年、雪野寺(現・龍王寺)創建と伝わる |
| 平安 | 竜王山・鏡山 | 1007年、雨乞いの霊験により雪野寺が龍王寺へ改称。鏡山は歌枕として和歌に詠まれる |
| 明治 | 鏡山村・苗村 | 1889年(明治22年)、町村制施行により蒲生郡に成立 |
| 昭和 | 竜王町 | 1955年(昭和30年)、両村が合併。東西の「竜王山」から新町名を採る |
地名の特徴
竜王町は町名そのものは昭和の合併で生まれた新しい地名ですが、その背後には奈良時代まで遡る山岳信仰と渡来文化の層が重なっています。町域は東の雪野山と西の鏡山に挟まれた蒲生野の平野部にあたり、日野川が貫流します。水利に恵まれる一方で干ばつの影響も受けやすく、二つの山に竜王を祀る信仰が根づいた背景には、この農業地帯ならではの切実な事情があったと考えられます。
雪野山は4世紀から7世紀にかけての古墳が200基以上分布する古墳群としても知られ、山頂の雪野山古墳は前期古墳の全長70メートルほどの前方後円墳で、銅鏡などの祭祀遺物が出土しています。鏡を副葬する古代の祭祀と、「鏡」の地名、そして竜王信仰が、同じ山塊の上で重なり合っている点は、この地域の地名を読み解くうえで見逃せない特徴です。
なお、鏡の里は源義経が奥州へ下る途上に宿泊し元服したと伝えられる地でもあり、中山道の宿駅として交通の要衝でもありました。
特産・名物
竜王町は「近江牛」の発祥の地として広く知られています。近江牛は日本三大和牛の一つに数えられるブランド和牛で、明治維新後に竜王町出身の竹中久次が神戸へ牛を引いて食用肉として卸売し、「江州牛(近江牛)」の名が全国に広まったとされます。
農産物も豊富で、「竜の舞」と名づけられた近江米は化学肥料を使わず丁寧に栽培されたコシヒカリ・みずかがみなどが揃います。また、町内で栽培される「足太あわび茸」は、アワビに似たコリコリとした食感と豊富なβ-グルカンが特徴の希少なきのこで、醤油漬けや佃煮、チップスなど多彩な加工品が展開されています。さらに春のいちごから夏のさくらんぼ・ブルーベリー・もも、秋のぶどう・なし、冬のかきまで、一年を通じてフルーツ狩りが楽しめる観光農業も盛んです。