地名の由来を調べていくと、ひとつの語源だけでは説明しきれない地名に出会うことがあります。川の名から起こった地名が、後に地形の呼び名としても定着していたり、アイヌ語由来の音が水辺の地形を指していたりします。逆に、由来がひとつの言葉にきれいに収まる地名も少なくありません。
本連載が参照する地名由来辞典は、収録するすべての項目に「categoryTags」と呼ばれる由来のカテゴリを付与しています。水系由来、地形由来、行政区画由来、アイヌ語由来など17種類の語彙が用意されており、ひとつの項目に対して原則として該当するものすべてが付けられる仕組みになっています。第1回となる今回は、この17カテゴリが辞典全体でどのように分かれ、どのように重なり合っているのかを、順位づけをせずにそのまま紹介します。
なお、本連載が参照する地名由来辞典の各項目は、公開情報をもとにAIが作成し、出典を付したものです。語源説の学術的評価そのものではありません。タグの付与も編集上の判断によります。そのため、以下の数字はタグの付与状況を集計したものであり、地名の由来そのものの分布と同一視できるものではないという点を、あらかじめ断っておきます。
母集団:1919件に、延べ3046件のタグ
辞典に収録されている項目は全1919件であり、そこに付与されたcategoryTagsは延べ3046件にのぼります。1項目あたりの平均タグ数は1.59個です。
まず、タグの個数ごとの分布から見ていきます。
タグ数の分布:約半数はひとつの由来で説明される
1919件の項目を、保持しているタグの個数ごとに分けると、次のようになります。
- タグ1個:958件(49.9%)
- タグ2個:798件(41.6%)
- タグ3個:160件(8.3%)
- タグ4個:3件(0.2%)
ひとつのカテゴリだけで付与が収まっている項目は958件であり、全体の約半数を占めています。一方で、4割強の項目は2個のタグを併せ持っており、ひとつのカテゴリだけでは付与が収まっていないことを示しています。3個160件・4個3件と少数にとどまっており、複数のタグが重なる場合でも、多くは2個どまりで収まる傾向があるようです。
17カテゴリの内訳:厚みのあるカテゴリと薄いカテゴリ
17カテゴリそれぞれの件数を見ると、水系由来546件(17.93%)と地形由来515件(16.91%)が他のカテゴリと比べて厚みを持っています。両者の差はわずか31件であり、どちらが上かという順位を強調することにはあまり意味がなく、この2つが並んで厚いカテゴリだと見るのが適切だと考えられます。
この2つに続くカテゴリの件数は、次のとおりです。行政区画由来328件、方角由来304件、アイヌ語由来189件、動植物由来186件、合併由来143件。命名経緯(公募)136件、その他117件、街道・交通由来113件、人名由来103件、歴史的事件由来100件。旧国名由来93件、寺社由来74件、古典由来67件、難読・特殊地名21件、外来語由来11件です。水系由来546件と外来語由来11件の間には、約50倍の幅があります。川や湖といった水系に関わるタグや、山や谷といった地形に関わるタグが多く付けられている一方で、外国語に由来するタグや、読み方そのものが特殊であることを示すタグは、数としては少数派にとどまっているという構成の幅がうかがえます。
各カテゴリがどのような地名を対象としているかは、タグ一覧ページで説明されています。なお同ページの件数は都道府県のページを含むため、本記事の集計(辞典の項目1919件)より多くなるカテゴリがあり、並び順も本記事とは一致しません。
単独タグ率:カテゴリによって「ひとりで立つ」割合が違う
あるカテゴリのタグが、他のカテゴリと組み合わされずに単独で付与される割合は、カテゴリによって異なります。
寺社由来は74件中35件(47.3%)が単独であり、人名由来も103件中46件(44.7%)が単独です。
対照的に、アイヌ語由来は189件のうち、単独で付与されているのはわずか4件(2.1%)にすぎません。残り185件、割合にして97.9%は、水系由来や地形由来など、他のカテゴリと併せて付与されています。アイヌ語由来のタグは、単独で付くよりも、別のカテゴリと組み合わさって付くほうがはるかに多いという傾向がここから読み取れます。
共起:同じ項目に重ねて付くカテゴリ
2つのカテゴリタグが同じ項目に同時に付与されている組み合わせを数えると、次の5つの組み合わせが上位に並びます。
- アイヌ語由来+水系由来:123件
- 地形由来+水系由来:106件
- 方角由来+行政区画由来:58件
- 動植物由来+地形由来:57件
- 方角由来+水系由来:54件
2個以上のタグを持つ項目からは、延べ1296件の重なりが数え上げられます。上位5つの組み合わせは、そのうち398件、30.7%を占めます。方角由来+行政区画由来(58件)と動植物由来+地形由来(57件)の差はわずか1件であり、上位の組み合わせ同士の差は総じて小さいため、どれが上かを強調することにはあまり意味がありません。アイヌ語由来と水系由来の組み合わせは、前節で見たアイヌ語由来の重なりやすさと符合します。
由来はこう分かれ、こう重なっている
ここまで、17カテゴリの厚みの幅、約半数が単一の由来で説明されるという分布、そして寺社由来・人名由来のように単独で立ちやすいカテゴリと、アイヌ語由来のように他のカテゴリと重なりやすいカテゴリがあることを見てきました。項目に付与されているタグは、ひとつのカテゴリで収まるものばかりではなく、いくつかのカテゴリにまたがっているケースが少なくないことが、この全体像から見えてきます。
なかでもアイヌ語由来は、前節で見たとおり単独で付与されることがほとんどなく、大半が水系・地形・動植物といった他のカテゴリと重なって現れるという点で、際立った位置にあります。次回は、このアイヌ語由来の地名を、地理的な広がりという別の切り口から見ていきます。第2回のテーマは「アイヌ語地名は、北海道で”ぴたり”と止まるのか」です。